ある日の朝、数河峠の上り坂。
ひとり車を走らせていた時だった。
空気は冷え、川は暖かくなってきた初冬のことである。
いつもならめっきり冷え込んでいるのに、今日はなぜかどんよりとした曇り空。

もう9時だというのに、まだ空はどんよりとしたままである。
目の前は依然深い霧が立ち込めていて光を吸収している。
ふと見ると、西の山並みに少し晴れ間が見え始めた。
・・・・・その時・・・・・。
朝もやが東に向かって流れ出した。
何かに吸い込まれるかの様に流れていく。
みるみるうちに、どんどん、どんどん、流れていく・・・。


ほんの瞬間のこと。
まるで、画像の巻き戻し・・・・・・
朝もやは、東の山のからまつ林を、真っ白に覆ってしまい
その向こう側に白銀色の太陽が、その姿をはっきりと見せている。
そのうち、朝もやの消えていくスピードとともに、
眩しくて見つめていられなくなり、残像が頭の中に焼き付いた。

なんだか、カッと眼を見開いた何かに睨まれている様な・・・・
とてつもなく大きなものが無言のままに自分を見据えている様な・・・
そんな気がした。

強さや自信を失っている自分に
体裁や形に心奪われている毎日に
本当の己を、見失うなと・・・ 聞こえた様な・・・・。

自然の神秘に、心の中の霧が晴れるような感じを受けた。
あっと言う間のわずかな時間。 雲ひとつない青空が広がっている。

今、そんな流れの中を貫き抜けた。